はじめまして、精神保健福祉士です。

昨年4月から精神保健福祉士として勤務しています。あまり聞きなれない職業かもしれませんが、精神保健福祉士は、長期に精神科病棟に入院する患者さんたちが、地域で生活していくための支援を行うことを使命としています。

 

当院で働き始めてから1年弱、「今度退院することになったので、近くで受診できる診療所を探している」といった患者さんからの問い合わせは、まだありません。長期の入院から地域社会での生活に移行するために、地域の精神科や心療内科を受診する必要のある方は一定数いるのではないかと考えますし、そういった方々のサポートをしたいと常々思っているのですが…。

 

統計上、精神科の病院で亡くなられる方は年間2万人程度いると言われています。また、厚生省の調査結果として、精神疾患を発症してから受診に至るまでの「未治療期間」は、平均して1年以上あるということが報告されています。

 

 

このことは、退院して社会生活に復帰すること、適切な治療を受けることといった当然の権利がきちんと保障されていない状況を示しています。このような状況が引き起こされる原因のひとつに、患者さん自身やその周囲に、正しい保障や医療サービスの情報が伝わっていないことがあるのかもしれません。かつて、呉秀三(くれしゅうぞう)という著名な精神科医が、「わが国十何万の精神病者はこの病を受けたる不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と述べましたが、昨年末には大阪で精神疾患を理由に長年監禁された女性が亡くなったという痛ましい事件もありました。100年近くに渡る長い年月を経ても、精神疾患への誤解や知識の乏しさという現状があり、今後も改善が目指されていかなくてはなりません。

 

このような状況下、当院で働く精神保健福祉士として、必要とする人に適切な医療サービスを届けるための役割を果たせたらと願っています。(地道なことではありますが、受付で顔を合わせ、言葉を交わす患者さんとの時間を、これからも大切にしていきたいと思います。


うつ病が治らない

 

 

という訴えが、患者さんからよくあります。

治療を初めて1ヶ月以内であれば、「それはフツウですよ」と答えています。

なぜなら、うつ病は「治す」病気ではなく、「治るのを待つ」病気だからです。

 

「治るのを待つ」とは、どういうことでしょうか。

「運行本数が非常に少ない田舎のバス停で、時刻表もないのにバスを待つ」ことに例えてみます。

バスに乗るためには、バス停でバスがやって来るのをじっと待っていなければなりません。

しびれを切らして、バスが来る方向にバス停を離れて迎えに行き、運悪く途中でバスが来たら、バスに乗れないことになってしまいます。

確実にバスに乗るためには、バス停でじっとしていることが、最も確実な方法です。

うつ病も、このバスのように、何月何日何時何分に治るかがわからないもので、その場にとどまって待つことが治療法の基本です。

 

治るのを待っている間に大切なことは、何もしないで休養をとることです。

うつ病の一番の薬は休養といっても過言ではありません。

以前のブログでうつ病は電池が残り少なくなっている状態と説明しましたが、この不足分を充電しなければなりません。

 

山の中に迷い込んで、自分の携帯電話の電池の残量が少なくなっているとき、どうしたらよいかを患者さんに尋ねることがあります。もちろん充電するコンセントもない状況です。

正解は携帯電話の「スイッチを切る」です。

そして自分が必要になった時にだけ、スイッチを入れて連絡を試みることです。

うつ病の患者さんにとってスイッチを切るということは、身体をできるだけ動かさないことです。

言い換えると、とにかく横になってゴロゴロしておくことです。

うつ病の状態が悪い時は、眠ることすら難しいものですが、ただ横になっておくだけで十分に充電ができます。

うつ病の状態がよくなってくると、自然と眠れるようになります。

この時、「眠れればうつ病が治る」のではなく、「うつ病が快方に向かえば眠れるようになる」のである点を、勘違いせず認識しておくことが重要です。

 

上記を試みてまだうつ病が治らない場合、患者さんにアルコールを摂っていないかを尋ねます。

よく患者さんから聞くのが、「眠れないからお酒を飲んでいる」という答えです。

アルコールを摂取すると眠れるように感じている方もいるのですが、睡眠の質は悪いものとなってしまいます。

また、アルコールによって一時的に気分がよくなり、「なんだか明日は仕事に行けそうだ」と思えたのに、翌日にはさらに落ち込んでしまったという話もしょっちゅう聞きます。

 

一時的な高揚感など、アルコールにはすぐに反応があるため、待ち続ける状態に焦りを感じる患者さんにとって魅力的な飲料です。

しかしながら、うつ病治療の大原則である「待つ」姿勢に全く反していますので、アルコール摂取は自らうつ病を治りにくくしているだけであるという点を、患者さんには繰り返しお伝えしています。

 

「何もしないで横になる」、「アルコールを摂取していない」の2点がすべてクリアされているのに快方に向かわない場合は、抗うつ薬の量を調べます。

量が十分であれば、次には抗うつ薬の種類を調べます。

現在使われている抗うつ薬と作用機序と違う種類の抗うつ薬を使うか検討します。

これでも治らないときは、もう一度診断をしなおすのが、うつ病が治らないときの流れです。

 

医師は、どんなうつ病の患者さんとも、じっくり向き合っていきます。

「周りに迷惑をかけているのではないか」、「早く仕事(学校)に復帰しなきゃ」といった患者さんの焦る気持ちをしっかり受け止めながら、「じっくり待つ」ことに寄り添っていきますので、うつ病は必ず治ると信じて、向き合ってほしいと願っています。

 

 


「投影」にみる小さなヒント

 

 

舌鋒鋭い政治家がいた。

語気荒く、凄まじい勢いで相手を口撃する様は圧巻だった。
ある日、自身の身から出たサビが原因で、あっけなく失脚した。

「あの饒舌ぶりはどこにいったのだ?」と驚くほどに、さっぱり自身の弁明ができていなかった。

そのような政治家が、少なくとも2人、記憶に新しい。

 

同僚が不倫をしているという噂を聞きつけて、目を吊り上げて非難する男性がいた。

他人の恋愛ごと、ましてや不倫なんて全く興味がない私からすると、他人事にあそこまで憤慨するなんて、大変厳格な人なんだなと感心するほどだった。

ある日、その男性がパートナー以外の女性と特別に親密な様子で歩いている場面に遭遇して、とても驚いた。

 

特定の部下をターゲットに定めて、執拗に攻撃する上司を見てきた。

あるいは、ターゲットとされている患者さんから相談を受けることも少なくない。

ターゲットにされているのは、高い確率で反抗しないタイプの人だ。

また、そうした上司らにはほぼ共通して、大人しく、絶対に言い返すことができなかった部下としての過去がある。

 

相手の中に自分の弱点、欠点を見出すことを、心理学的に投影と言います。

自分の弱点(欠点)を誰よりもわかっているのは自分ですので、その批判も的確、時に執拗になります。

剣道が得意な友人から、「面が得意」と言われている対戦相手に、面を打ってみると意外とよく決まるということを教えてもらいました。

自分の弱点を攻撃することは、最も効果があることとも言えます。

 

 

 

先の3つの例について、すべて投影だとは言いすぎかもしれませんが、「投影かもしれない」と考えると、少し見え方が変わってこないでしょうか。

特に、患者さんから相談の多い「意地の悪い上司」については、投影の観点からも一緒に考えるようにしています。

部下の改善を目指す指導としてなのか、攻撃している本人の弱点を部下に見出しているのか。

後者であれば、「胸を張って、明日も仕事に行っていいのです」とお伝えしています。

 

私自身の投影として例をあげれば、子どもの叱り方です。

子どもを叱るその理由は、純粋にその子の悪いところを直したいという思いにあるのか、自身の中の悪いところを子どもに見ているからなのか。

後者だと気付いたら、「自分もなんとかここまで生きてきたんだし」と、ある程度は許容するように意識してきました。

 

自分が誰かに投影されていないか、あるいは自分を他人に投影していないか。

誰かと向き合う際に、投影について少し考える余地を持っておくことは、決して邪魔にならないヒントになると考えています。


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